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古酉山の木馬のこと。

山というにはちょっとお粗末な古酉山。
古酉山の頂上はボクの会社から歩いて十分で、
それはボクの会社が古酉山の麓にあることを意味するけれど、
それはどうでもいい。
行きに十分、帰りに七分。
昼休みにちょっと行って帰ってくるには十分だ。
頂上には古酉山公園という、アリバイ作りみたいな公共事業の跡があって、
ベンチと砂場と、幾つかの遊具がある。
その遊具の一つに、木馬がある。
地面から突き出た杭が馬の腹を深く突き刺して木馬は動けない。
笑えるのはそいつの背中に丸い鉄の蓋がしてあるところ。
思うに、こいつは元々どこかの遊園地のメリーゴーラウンドの一頭だったが、
何らかの理由でメリーゴーラウンド解散の憂き目に合い、
働く場所を求めて、この公園にやって来たのだろう。
もしくは、やって来させられたか。
それはどうでもいい。
メリーゴーラウンドはきれいだ。
夢の世界を体現したような装置に入ってぐるぐる回っているうちに、
世界に自分が溶け出して、きらびやかなものの一部になれる。
だけど縫いとめられた木馬は、夢を見せるが夢にはなれないのだ。
串刺しの馬は痛くて眠れまい。

腹には新たな杭が刺され、背中の傷は塞がれた。
雨ざらしに耐えられるように、新しい皮膚も与えられた。
栗毛のてらてらした表面の一部がひび割れ、白い地肌が見え隠れする。

いつかそこがべりべりと割れて、
その中からこいつが生まれ直すのを夢想する。

自分を食い止めるものからすり抜け、走り出す。

そんな彼の姿が見たくて、
ボクは昼休みに山を登り降りしているのかもしれない。

でも雨の日には行かない。
そこまで夢は見られない。



おわり。

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Tag : 妄想

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