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演劇脚本「椅子はある」

登場人物

男(多分二十代)
女(もしや二十代)
少女(きっと十代)


暗転のままスタート。
バスの運転手のナレーション「西町診療所前~西町診療所前~」
ばあさんの声「はいはい降りますよ。……お兄さん、席、ありがとうねえ」
バス停止、発車などのSE。
そして照明が点くと中央に椅子。それを囲むように男、女、少女がいる。


男、中央の空いた席を見たあと、女、少女と順に目をやる。
少女・女は席を見たあと、男の方を見る。

男「あの、どっちか座りませんか?」
女「どっちかって……」

女と少女、向き合う。

女「私、疲れてないですから。いいですよ」
席の上に手のひらをかざして少女を見る。

少女「それ、おかしくありませんか」

女「おかしいですか?」

少女、男の方を見て言う。
少女「おかしいです」

少女「どっちか座りませんか?って、ここはあなたの席なんですか?」

男「そうきましたか」

女「あ、確かに」

少女「その人のものかもわからないものを譲られても困ります。しかも決め方はこっちに投げるし。なんというか、そういうのやなんです」

男「元々おばあさんに席を譲ったのが私なので、お礼を言われた時点で私に所有が帰属したのかと早合点しました。申し訳ない、しかもお二人に負担をかけてしまった。これでは私が良いことをしたと満足感を得るためにお二人を利用したととられても仕方ありません」

少女「そこまでは言ってません。必要以上に悪びれられてもずるいです」

女「あはは、ずるいって」

女、口を抑える。

男「参ったな。じゃあどうすれば正解なのかな」

男はかしこまった雰囲気を崩す。少女は動じず毅然。

少女「改めてこの席の所有を問い直すべきだと思うんです。おばあさんが手放したこの席は、誰のものであるべきか」

女「ディベート的な感じです?」

少女「そうなるかもしれませんが、私としてはこの椅子が収まるべきところに収まればそれでいいです」

男「バスの右側二行目にしっかり収まってるけどね」

少女、きっと男を睨む。女、口を抑えながら笑う。

女「はい、じゃあ私は疲れていません。今日は温泉に来ただけで、朝から何にもしていないんですよ。席は疲れている人が優先的に座るべきじゃないですか?」

男「なるほど、そう考えると私も疲れてませんよ。今日はたまたまスーツでしたが、実はオフで、色んなところを巡っている途中なんですよ。まともな私服が無くってついスーツで来ちゃいましたが……」

二人「で」

少女「……今日は夏期補習で、午前だけ学校に行ってきました」

二人「じゃあ」

少女「でも疲れてません。それに私は若いですから、お二人とは疲れる度合いも違うんです」

女と男、顔を見合わせる。

男「そんな若い人にこそ座ってほしいよ」

女「ぜひ私達を踏み台にして、より良い日本を作ってほしいな」

少女「お年を召した方の方が優先して座るべきだというのが一般的だと思うんですが……」

男と女、顔を見合わせる。

男「あー……」

女「えー……」

男「KinKi Kidsにありがたみ感じます?」

女「日本の宝です。初めてお小遣いで買ったCDは?」

男「TK presents こねっとのYOU ARE THE ONE」

女「あーー……」

男「これ以上つっこむのやめますか」

女「そうですね。デリケートな話題ですし」

少女「……どうしたんですか」

男「私達からしたら、お爺さんお婆さん以外は誤差だよ」

女「そう、みんな若者。あなたも、わたしたちも」

男「だから年齢をかさにきて、席を押し付けようとするのはどうかなと」

女「本当に席を必要としているのは誰なのか、もう一度考える必要がありそう」

少女「……別にいいですけど。年齢の話を持ち出したのは私だし。……じゃあ、持病とか……私はないですよ」

男「健康」

女「元気」

男「ははは、元気って、なんだかほんのりバカっぽい響きですね」

女「あはは、健康な社会人が、休日にスーツって、不健康ですよ」

少女「やめましょう、くだらないことでけんかみたいになるのは馬鹿らしいですよ……」

男「いや、くだらないと言うなら、席一つ巡って立ちっぱなしでうだうだ言うのはくだらなくはないのかい?」

女「それこそちゃぶ台返しでくだらないですよ。子どもにつっかかるのはみっともないですよ」

少女「子ども扱いしないでください」

男「きみも混ぜっ返すねえ!」

女「あー……」

その時運転手の放送が流れる。

運転手「お客様……この席はあえて、空けておくというのはどうでしょう」

少女「え」

運転手「お客様が言い合いをしているのは、そもそもは自分以外の誰かに席を譲ってあげたいという優しさから。その優しさがいがみ合いに変わって終わってしまうのは悲しすぎます。ですからその席を"みなさまが優しかった証"として、そのままにしておくのはどうでしょう」

男「誰かのものにしようとするから争いが起こる……」

少女「だったらみんなのものにして」

女「いつか誰かが必要になったら、そっと差し出せばいい……」


三人、顔を見合わせる。


少女「なんだか当たり前のことのようでした」

男「当たり前のことって忘れちゃいますね」

女「そういうの、大事にしなくちゃいけませんね」

そして女、やおら持っていたバッグを空いた席に置く。

女「じゃあちょっとこれだけは、置かせてください。あんまり服は入れてこなかったけど、さすがに重くって」

少女「別に座ってくれてもいいのに」

女「いやいや、せっかくいい話になりそうだったので」

三人はははと笑い合う。

運転手「他のお客様のご迷惑になりますので、座席を荷物で占用するのはおやめください」

男「お役所仕事が!!」
少女「株式会社のバスですよ、県営でも市営でもないです」
女「ははは、しまらないー」

徐々に照明が暗くなるのと合わせて、三人の声も小さくなっていく。


終わり。

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