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つまるところ、この街は

暗い道から暗い道に、きっと入ってしまうから……。
私のゆく道を照らしてください、お月さまよ。

とは、和泉式部の歌の和訳。

でも、自分がダメになってしまう予感を、
感じ取れているだけエライと思う。
たいていの人は、気づいたら
もうどうしようもなくなっている。

・・・・・・


イリシと呼ばれる石を適当な大きさに切り出し、
(あまり揃っていないほうがいい)
大きい順に下から積み上げる。
崩れそうかなという頃合いで、
エイニアという粘性の液体をかけ、
イリシの壁を固まらせる。
このやり方ではエイニアが入り込まない
ところも出てくるが、そこはそれ。
実はそのほうが風通しがよくなって
アンバイがいいらしい。
それをだいたい、物見の塔が
首まですっぽり隠れるくらいまで繰り返す。

街の外壁のできあがりだ。

・・・・・・

「つまるところ、この街は、
 おれの雑な感覚によって支えられているわけ」

・・・・・・


ウテイの花が色づく頃、
外壁管理事務所に、数年ぶりに新人が配属された。
誰が攻めてくるわけでもなく、
必然的に街の外れに居を構えることになる
この仕事を希望する人間は少ない。
たいていやってくるのは人間嫌いだが、
こんな仕事でも人間を相対せずには終わらせるのは
難しい。たいていひと月も持たずにほっぽり出し、
街の外の森に住むか、井戸の底に住みはじめる。
親方は情けない奴らだと愚痴るけど、
おれはそうは思わない。
だって、一度は、自分の出来る範囲内で、
他人と関わって仕事をしようと思えたからだ。
その結果、ああなったからって、
一歩踏み出したことは、きっと笑われるべきではない。
面と向かっては言えないけどね。

……だから、妙に明るい新人が来た時は少し驚いた。
彼の名前はニリイリといった。
太陽の神の名を戴いた彼は、
ところかまわず喋りまくった。
新しく目に映るものの名前、成り立ち、意味。
おれはうるさいのは嫌いだが、
話をするのは嫌いではないからたいてい付き合ってやった。
あいつに言われてはじめて日々の仕事の意義を
考えることもあった。
同僚はそういうのを嫌がったが、
おれはそういうのを考えるのが好きだ。
自分のすることに納得できると、
能率がぐんと上がるのだ。
ニリイリが来て職場は明るくなったが、
おれはあいつが叡智の光をもたらしてくれたと、
今では少し思っている。
すこしかまってやらないと、
エイニアの仕込み中の親方にまで
話しかけるのは閉口したけどね。

・・・・・・

ある日のことだ。
具体的な日付はわからない。
納期のない仕事の弊害かもしれない。
ニリイリが昼の弁当に
みんなでつまめるおかずを持ってきた。

おれたちの仕事はばかみたいに雑で、
ばかみたいに簡単だが、汗はかく。
しっかり塩で下味がついた
ニリイリの肉の炒めものを
みんなは喜んでぱくついた。

だが、調味料が効きすぎて肉の味が分からない。
まあ、安い肉を使った時の常套手段なんだけど。
だから料理好きのテデスが聴いたんだ。
「何の肉をつかったんだ?」と。
自然な質問だったと思う。
だからニリイリも自然に答えた。
「はい、ぼくの妹の肉です」

・・・・・・

その日からニリイリは仕事に来なくなった。
ニリイリのあの発言のあと、
みんなは少し真顔になったあと、
オエーなんてえづくフリをしてふざけて、
ちょっと変な空気になりながらも、
日常がそれを紛れさせてくれると思ったんだ。

それを、仕事に来ないニリイリが、
日常に戻すことを許さなくしてしまった。

テデスはずっと調子を崩している。
親方が無口なのは変わらないが、
ニリイリに関しては愚痴も言わない。
コロツキーは仕事をやめてしまった。

おれは特に変わりがない。
相変わらず雑に壁を作っている。
だが、洗練された雑さだとおれは思う。
ひとつひとつの雑さに磨きがかかったとも。

ニリイリのこと、一時はずっと考えていたが、
最近はたまに思い出すだけになった。

それは決まって、単純作業のときだ。

「先輩、これ、意味あるんすかね」
「今は意味ないかもしれねえけど、
 いつ、何があるかわからねえからなあ。
 お前のこたえを聴かせてくれよ」
「ボクが思いつかないから聴いてるのに」

誰もニリイリがほんとうに
妹の肉を入れたとは思っていないだろう。
でも、それを言ってくれるニリイリはいない。

いつかこの街を、
誰か悪いやつが攻めてきて、
この壁の有用性にみんなが気づいたら、
ひょっこりニリイリがやってきて、
あの弁当の肉、妹のじゃないんです。
なんて、謝ってくれるかもしれない。
そう思いながら、
おれは今日も、
気を遣った雑な仕事をしている。

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Tag : 妄想

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